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目に見えない性暴力の被害
「女性の13人に1人、男性の67人に1人」。
2017年度に行われた内閣府の調査で、「無理やり性交を受けた経験がある」と回答した人の数だ。しかし、被害にあった半数以上が被害を相談できておらず、実際の被害件数はもっと多いと言われている。勇気を出して警察に被害届けを提出したとしても、性暴力が性犯罪として警察に認知された例は1年間で1307件、そのうち起訴まで至ったのは、たったの492件(2019年度)。
2017年、110年ぶりに刑法性犯罪規定が大幅改定された。しかし、積み残された課題は多く、2020年6月から、法務省でさらなる議論が始まった。性暴力がなくならない背景には、何があるのだろうか?
被害者を責める「レイプカルチャー」とは?
性に関する話題は、タブー視されることが多い。特に、性暴力の話題は「恥ずべきもの」「話してはいけないもの」とされ、被害者は口を閉ざしてきた。背景には、レイプしないよう教えられるのではなく、レイプ“されない”よう教えられる文化、「レイプカルチャー」が影響している。
レイプカルチャーとは、1970年代に提唱された言葉で、加害者でなく被害者の側に責任があるとして、性暴力が起き続ける社会を許してしまう文化のことである。代表的な例として、第三者が被害者に対して意見を押し付けたり、被害にあった原因が被害者自身にあったとして責める「セカンドレイプ」がある。「そんなのみんな経験することだよ」「〇〇とやれたなんて、ラッキーじゃん」「あなたが誘ったんじゃないの」などの言葉がそうだ。
セカンドレイプ的な発言や考え方は、性暴力を助長し、被害者が助けを求められる場所を社会から奪ってしまう。事情聴取の場で被害者につらい経験を何度も説明させたり、立証が難しいからと被害届を出さないよう勧める警察や法のあり方も、セカンドレイプと深いつながりがある。

「いやよいやよ」は嫌なんだ
日本の刑法性犯罪規定は、被害者保護が十分でなく、多くの被害者が泣き寝入りを強いられているのが現状だ。今の日本の刑法では、「無理やり性行為をされた」「同意していなかった」と訴えるだけでは、犯罪として認められない。強制性交等罪は「暴行」または「脅迫」、準強制性交等罪は「心神喪失」「抗拒不能」が犯罪が成立する要件として求められている。さらに、行為者がその状況を知り、「故意」に行なっていたことを証明できなければ、加害者は無罪になってしまうのである。この結果、2019年3月には、相次いで無罪判決が下された。
イギリス・カナダ・ドイツなどでは、「“NO MEANS NO”POLICY」という、意に反する性行為が広く処罰される法律がある。つまり、相手の同意がないまま、相手が拒絶しているのに性行為をすること(不同意性交)自体が犯罪とされている。
殺人をした加害者は一生をかけて罪を償う。しかし、魂の殺人とも言われる性暴力においては、加害者を守り、被害者を苦しめ続けるのが、今の日本社会の現実だ。
レイプの9割が面識のある人によって行われる
「レイプは見知らぬ人から突然される行為だ」と思っている人は少なくないだろう。実は、9割のケースが面識のある人からの犯行で、身体的な「暴行」「脅迫」がなくても、「嫌だと言えない、通報できない関係」を利用したものだ。また、2017年の法改正で、親から子への性暴力は、暴行・脅迫要件を証明しなくとも処罰される対象になったが、親以外の者でも被害者に対し一定の影響力を持つ者から13歳以上の者への性暴力は、未だに暴行・脅迫要件の証明が求められる。
日本では、性的同意年齢という、性行為の同意能力があるとみなされている年齢の下限を13歳と定めているが、これはOECD加盟国の中で最も低い年齢である。
大きな社会と小さな社会を変える

性暴力は閉ざされたドアの向こうで行われ、証明することが難しい。そのため個人の問題として矮小化されてきた。しかし、性暴力は決して個人の問題ではなく、社会構造に埋め込まれた問題である。
2017年の大幅な法改正から3年。積み残された課題に取り組むため、認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、以下の6つの改正案を求めている 。
「暴行・脅迫要件の撤廃」
「不同意性交等罪の創設」
「心神喪失・抗拒不能要件の明確化」
「性交同意年齢の引き上げ」
「監護者以外の者から児童に対する性暴力を処罰する規定の新設」
「18歳以上の者への地位関係性を利用した性暴力を処罰する規定の新設」
HRNを始めとした市民団体は、「同意」に基づき、性的自己決定を尊重し合える社会を実現を目指して、刑法改正を求める継続的なロビイング活動を行っている。人々の生命の尊厳と権利を守るために、日本の司法は今こそ変化が求められている。
性犯罪に関するさらなる法改正の議論が動く2020年は、私たちの性暴力に対する考え方もアップデートする時である。性暴力を許さないという文化をつくっていくために、まずは私たち一人ひとりがコミュニティー内の「性」に対する考えを見つめ直し、「同意」のある関係性を築いていくことが必要ではないだろうか。

あなたにできること
学ぶ—— 話しづらいテーマだからこそ、分からないことが多いということも。性暴力に関する本やニュースで情報を集めて、歴史や現状を学んでみよう。
伝える—— 学んだこと、モヤモヤしたことについて、安全な場所で信頼できる人に伝えて話してみよう。話したくないことについては、無理やり話さないことが大事。
参加する—— 性暴力を許さない社会をつくるために、以下のような活動に参加して仲間とともに声をあげよう。
写真提供/認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ、Image via Shutterstock、執筆/中村茜