
さまざまな企業で推進されるD&I。そこへさらに「Equity」(公平性)を組み込んだ、「DE&I」(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)という概念を掲げ、働く人のバックグラウンドや価値観といった多様性を尊重しながら、活躍の機会を公平に提供し、自分らしく働ける環境を整備する新しい企業が増えている。
いち早くこのDE&Iを掲げ、全社を挙げて推進に取り組むのが、国内最大級のデジタルマーケティング会社である電通デジタルだ。2016年設立という新しい企業であることを強みとし、柔軟に組織の最適化を図っている。
社内のDE&Iを推進すべく生まれたダイバーシティプロジェクト、パパママプロジェクトやシャインアッププロジェクトといった取り組みは、社員の声を吸い上げて生まれたもの。もちろん、女性の活躍にも目が向けられており、要職に女性が登用される機会も増えている。
2022年3月8日には「国際女性デー」にちなみ、社内オンラインイベント「電通デジタルのDE&Iとは」を開催。今期より執行役員となった安田裕美子さん、DD(電通デジタル)BEST AWARD 2021でベストマネージャー賞を受賞した中野真由子さんが登壇。
総務部サスティナビリティ推進チームの西野理子さんをモデレーターに、それぞれの立場から電通デジタルにおけるDE&Iカルチャーの浸透進度や課題、目指すべき組織像について語りあった。その様子を、イベント後におこなった取材も踏まえてレポートする。
安田裕美子(やすた・ゆみこ)
電通入社後、ビジネスプロデュース部門を経て新設のデジタル組織にてマーケティングの高度化を推進。その後電通デジタル設立に参画。デジタルトランスフォーメーションコンサルティングを手掛けるほか、事業のサービス化=サービスマーケティング領域において新規事業の開発、ビジネルモデル変革支援、顧客接点の構築、施策マネジメント等に従事している。現在、電通デジタル ビジネストランスフォーメーション部門 部門長 執行役員。
中野真由子(なかの・まゆこ)
動画共有サイト運営企業を経て、2015年にDAサーチ&リンク(現・電通ダイレクト)入社、電通に常駐。2016年より電通デジタルに在籍。パフォーマンスメディアを核としたデジタルマーケティング施策のコンサルティング業務に従事する。2021年、コロナ禍におけるチームマネジメント施策の開発、および大型プロジェクトをリードした実績が評価され、社内の表彰制度DD BEST AWARDにてベストマネージャー賞を受賞。現在、電通デジタル 戦略アカウントプランニング部門 プランニング第3事業部 グループマネージャー。
最初から管理職を目指していたわけではなかった

女性管理職というと、学生時代や入社時から志が高い優秀な人材が就くポジションというイメージがつきまとう。しかし意外にも2人は、「クライアントの課題を解決するために、目の前の仕事一つひとつに向き合ってきた結果が、今につながっている。最初から管理職になりたいという野心を抱いていたわけではない」と口を揃える。
安田さんは新卒で電通に入社し、電通デジタル設立に参画。ビジネストランスフォーメーション部門で部門長を務め、2022年1月に執行役員となった。
「電通から電通デジタルへ参画することを決めたときも、部門長や役員就任の話をいただいたときも、自分に成し遂げられるのかと悩みました。そんなときに心で頼っていたのが、上司や先輩の存在です。『あの人だったらどう判断するかな、なんて言うかな』と想像することで、なんとか乗り越えてきたという感じですね」(安田さん)
決断への背中を押したのが、親しい友人からの「何を選んでも、あなたらしいよ」という言葉。さらにDeNA創業者である南場智子氏の著書『不格好経営―チームDeNAの挑戦』(日本経済新聞出版社)の中の一節、「『正しい選択肢を選ぶ』ことは当然重要だが、それと同等以上に『選んだ選択肢を正しくする』ことが重要」という言葉も胸に響いたという。
一方、「異動と昇格が重なったことに不安はあった」としながらも、自身のスタンスとして「仕事の依頼はすべて“はい” か “Yes” で応えると決めているので、断るという選択肢はなかった」と中野さん。「誰が上司になるかは、働く人の成長に大きく関わるため、プレイヤーの頃から“自分だったらどんな管理職になりたいか”というイメージは漠然と描いていた」と話す。
「マネージャーに推薦してくださった当時の上長に『マネージャーにはプレイング力だけでなく、人を育てる能力も必要。強さと柔らかさの両方を持っているあなたに、そのロールモデルになってほしい』と言われ、その言葉を胸に刻み、毎日の仕事に取り組んでいます」(中野さん)
人の上に立つとは限らない。後ろから見守ったっていい

とくに若い女性において「私には無理」と自分の実力を過小評価して昇格を望まない、いわゆる「管理職離れ」が進んでいるという。
電通デジタルの従業員男女比は6:4で、女性の割合も高い。一方で、中野さんがこのイベント開催時にアンケートを取ったところ、「管理職に就きたいか」との問いに、全体の80%がポジティブに捉えているものの、20%の「目指していない」「任命されてもやりたくない」といったネガティブな回答が見られ、それらはすべて女性からの回答だった。
「管理職になりたくないという回答はもっと多いと思っていたので、『20%でよかった』というのが正直な印象。とくにデジタル業界は絶対数として男性のほうが多い現状ではありますが、女性が活躍するポテンシャルはまだまだあると考えています」(中野さん)
中野さんが強調するのは、「マネージャーの仕事はチームを引っ張っていくことだけではない」ということ。
「もちろん、皆を鼓舞してやる気を生み出すリーダーシップは必要ですが、チームに秩序と効率をもたらすことも、マネージャーの大切な仕事。ですので『人の上に立つことが苦手だから、管理職になりたくない』と控えめになってしまっているのであれば、そうではない、自分なりのマネージャー像をつくってほしい」(中野さん)
これには安田さんも同じ見解を示す。もともと自身をプロデューサー志向だと分析する安田さんは、「自分が前に出たいというよりも、チームのみんながうまくいけばいいという考え方。ビジョンは示しながらも、リーダーはチームのお世話係でもあると思っています。上に立つというよりむしろ、真ん中にいてあれこれ支えるという感じでしょうか」と話す。
「女性の活躍=管理職」とは限らない

また、「女性の活躍=管理職」というわけではないと中野さん。「『自信がない、忙しくなりそう』といった理由で管理職を遠ざけるなら、もう少し背中を押しますが、その人がたとえば『プレイングを伸ばしたい』という考え方なら、それはおおいにあり」と語る。
「ただ、マネージャーという役職は、ゆくゆくは経営に携われる切符を手にできるということ。電通デジタルという、業界をリードできる企業で経営に携われるということは、ありたき業界、ありたき会社を実現しうることでもあるので、何かしらに疑問や不満があるならば未来を変える側に進んで、一緒に働きませんか? という気持ちです」(中野さん)
電通グループ自体は120年もの歴史を持つが、電通デジタルはそのカルチャーも持ち合わせた新興企業として、新たな制度化に積極的に取り組んでいる。社員一人ひとりの声が経営陣に届き、課題解決のための策が練られる。
「電通デジタルの経営陣はとてもピュアで、会社をよくすることを本当に真剣に考えています。課題が上がれば超速で仕組みをつくり、やってダメだったら別の方法を考える。DE&Iについても、社をあげて取り組んでいきます」(安田さん)
女性の活躍を声高に叫ばなくていい、多様性ある未来を

この日は国際女性デー。最後に、女性が活躍できる理想の企業像、社会像を聞いた。
「理想は、『女性の活躍を』と声高に叫ばなくてもいい社会。『女性の活躍を、女性の登用を』と掲げすぎてしまうと、逆に『あの人は女性だから昇格できた』などというバイアスがかかりかねません。DE&Iの考え方がもっと浸透し、その人のバックグラウンドを問わずに働ける場が提供され、結果、組織力が上がっていく。そんな企業、社会を目指したいですね」(安田さん)
また、女性の社会進出を語るとき、いつの時代も引き合いにされてきたのが、結婚や出産といったライフイベントだ。
「結婚をするしない、子どもを持つ持たない、さまざまな選択肢があっていいと思います。管理職に就くと忙しくてプライベートの時間がなくなるといった不安を持つ女性も多いようですが、電通デジタルにはそんな不安や不満によって生まれた『管理業務軽量化プロジェクト』もあります。自分らしく働きたいと願う人にとって、電通デジタルはまさに理想の場であると、胸を張って言えます」(中野さん)
電通デジタルでは、今後も多様性をテーマに、さまざまなバックグラウンドを持つ社員がトークを繰り広げるイベントも企画していくそうだ。また、社内で放送している「DD RADIO」では、安田さんが社員の人生相談にのる「スナック裕美子」のコンテンツ化が決定。リモートワークによるコミュニケーションが激減し、雑談の機会を失った社員に向けて、仕事の悩みはもちろん、プライベートの相談も受け付けるのだという。
国際女性デーをきっかけに開催されたこのイベントは、午後の忙しい時間帯にかかわらず、多くの視聴者から質問やコメントが寄せられた。女性の働き方や女性管理職への関心の高さをうかがわせたとともに、多くの人が自分なりの働き方について考えるきっかけとなったに違いない。

撮影/キム・アルム、取材・文/大森りえ